100万円のAIが売れている。本当に怖いのはそこではない

価格.comを見て驚いた。
 
NVIDIAのDGX Sparkが、デスクトップPCの人気売れ筋ランキングで1位になっている。価格は約100万円。互換機(中身は全く同一でNVME容量と筐体デザインしか違いがない)まで含めると、20位以内に互換機が3台も入っている。つまり上位20のうち4台が実質DGX Sparkということになる。
 
 
普通のPCとして考えれば、とんでもなく高い。
 
しかし重要なのは、「100万円もするから、せいぜい一部のマニア向けだろう」ではない。
 
100万円近くしても買う人がいて、実際に売れ筋ランキングの上位に来ているということだ。
 
もちろん、これがQwen 3.8の登場だけによるものだとは言えない。しかし、実際にQwen 3.8をローカルで動かしてみると、100万円クラスのAIマシンを個人が欲しがる理由が少し分かってきた。
 

Playwrightのデモを頼んだだけだった

Qwen 3.8にPlaywrightを使わせてみた。
 
Playwrightは、ブラウザを中で動かして、さまざまな情報を取得したり操作したりできるツールだ。
適当なホームページを指定してスクリーンショットを撮るなんて朝飯前だし、ログイン画面でログインして、たとえば商品をショッピングカートに入れるという芸当も簡単にできる。node.jsを入れれば、どんなパソコンでも動かせる。さらに、Googleにログイン済みの自分のブラウザを使わせることもできる。
 
これをAgent AIと組み合わせれば、
「どこかで買い物をしてきて」
なんてことも技術的にはできてしまう。
 
自分が最初に頼んだのは、単純なブラウザ操作のデモだった。
 
ページを開く。
入力する。
クリックする。
スクリーンショットを撮る。
ここまでは普通だった。
ちなみに、Open WebUIでもついにChat画面に画像を表示してくれるようになった。なので、キャプチャー取りましたー>どこに置いた?が無くなった。
 
そこで、自分で運用しているWebダッシュボードを指定して、同じことをやらせてみた。
何がすごいって、画面表示が出揃うまでまってからスクリーンショットを撮っている。
 
すると、だんだん様子がおかしくなってきた。
 
ブラウザから発生しているリクエストを観測し、APIエンドポイントを見つけ、それを直接取得し、DOMに表示されている値とAPIの値を比較し始めた。
こちらは、そこまで頼んでいない。
中で使っている自作APIまで叩き始めた。
 
極め付けは最後のコメント:「slow-fire」の看板に偽りなし…でした 😄
 
ちなみに、セキュリティ評価を頼んでいなかっただけではない。勝手に120秒間の性能測定まで始め、「slow-fireの看板に偽りなし😄とオチまで付けてきた。そこまで頼んでいない。ちょっと体育館の裏へ来な!と言いたくなった。
 
さらにセキュリティ観点での観察を指示すると、
  • HTTPリクエスト
  • APIエンドポイント
  • Status Code
  • Content-Type
  • CORS
  • Cookie
  • Security Headers
  • DOMとAPIの関係
  • JavaScript中のAPI参照
  • fetch()innerHTMLsetInterval
  • 外部サービスへの通信
などを自分で調査し、リスクまで分類した。
これは単なるチャットAIというより、ブラウザを「観測装置」として使う調査員に近い。
 

少し前まで、AIによる攻撃が話題だった

AIを使ったサイバー攻撃や、自律的に脆弱性を探すAIが話題になると、どうしても「特殊なAI」「攻撃専用AI」に目が行く。しかし、今回Qwen 3.8を触っていて感じたのは、もっと単純な問題だった。
 
普通に高性能なAIが、普通にローカルで動くようになるだけでも、攻撃と防御の能力は大きく変わる。
 
Playwright、curl、Python、シェル、ブラウザ。どれも昔から存在していた道具だ。
 
そこに、状況を理解して「次に何をすべきか」を考えるAIが加わる。
すると、
「ページを見て」
から始まったはずなのに、
「APIがある」
「このレスポンスがおかしい」
「JavaScriptも調べよう」
「CORSも確認しよう」
と、自分で調査を進めるようになる。
これまでの自動化とは、少し意味が違ってくる。

民衆にも「拳銃」が渡り始めた

少し乱暴な例えをする。
 
これまで高度なAIを使ったサイバー攻撃能力が戦車やライフル銃だとすれば、一般の個人が持っていたのは火炎瓶のようなものだった。
知識も設備も必要だったし、できることにも限界があった。
 
ところが今、その差が縮まり始めている。
戦車が個人に配られたわけではない。
しかし、拳銃くらいの能力なら個人でも持てるようになってきた。
しかもクラウドサービスではない。
もし、128GBのメモリを積んだ100万円前後のマシンを一台買えば、かなり高性能なモデルを自分の手元で動かせる。
利用規約による制限も、APIの従量課金も、クラウド側の監視も前提ではない。これは防御側にとって素晴らしい。
ログ解析、設定監査、脆弱性調査、インシデント調査などをAIに手伝わせることができる。
 
しかし、当然ながら同じ能力は攻撃側にも使える。
 

AIが救世主になるわけではない

ここが一番重要だと思う。
「防御AIが進化すれば安全になる」という単純な話ではない。
攻撃AIが進化する。
防御AIも進化する。
つまり、攻守の兵器がそのまま一段階進化する。
 
AIが救世主として登場して、攻撃者を一掃してくれるわけではない。
 
問題なのは、人間側の防御戦略である。
 
境界型防御を前提にしたまま。
人間がログを見る前提のまま。
人間が異常に気付いてから調査する前提のまま。
「攻撃者も人間だから、この程度の速度だろう」という前提のまま。
「攻撃者は単に自動化スクリプトで大量に実行しているのだろう」という前提のまま。
 
そこへ、自律的にブラウザを操作し、APIを発見し、レスポンスを比較し、次に何を調べるかを**「考える」AI**が入ってくる。従来のBotなら、基本的には人間が決めた処理を高速に繰り返す。
 
しかしAgent AIは、観測した結果によって次の行動を変える。
 
そこが大きく違う。
 
武器だけが2026年になって、人間の防御戦略が2020年のままだったら、たぶん太刀打ちできない。
 
DGX Sparkが100万円することよりも、現実にその100万円を払ってでも買う人が多くいること。
 
そして、その箱の中で動くモデルが「Playwrightのデモをして」と言っただけなのに、いつの間にかWebアプリケーションの内部を調べ始めるところまで来ていること。
 
こちらの方が、DGX Sparkが1位になったことよりも、個人に得られる能力が上がってしまったことがずっと重要な変化なのかもしれない。
 
ちなみに、余談だが、これは実は、DGX Sparkではなく、EVO-X2 (Strix Halo)での結果。今の値段で言えば、DGX Sparkと同じメモリ容量で、少し安い。それでもこんな結果出てしまう。もっと驚いたことに、DGX Spark、Strix Haloは去年売り出されたもので、その後、新機種が出てきていない。つまり、ハードウェアではなく、エコシステムやモデルだけでここまで進化してきた。つまり、動きが速いAIの世界でもハードウェアに関しては全然陳腐化していない。

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